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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1583号 判決 1996年5月30日

甲事件原告

日産火災海上保険株式会社

被告

谷口和志

乙事件原告

春川勝彦

被告

吉田貞夫

主文

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、金一二八万円及びこれに対する平成七年九月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、金四八万七九三九円及びこれに対する平成七年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用の負担は次のとおりとする。

1  甲事件原告及び甲事件被告に生じた分を五分し、その一を甲事件原告の負担とし、その余を甲事件被告の負担とする。

2  乙事件原告及び乙事件被告に生じた分を五分し、その四を乙事件原告の負担とし、その余を乙事件被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲事件被告は、甲事件原告に対し、金一六〇万円及びこれに対する平成七年九月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙事件被告は、乙事件原告に対し、金二六八万九六九七円及びこれに対する平成七年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)に関し、次の金員の支払が求められた事案である。

1  甲事件

本件事故によつて車両損害を被つた乙事件被告と保険契約を締結していた甲事件原告が、右保険契約に基づく保険金を乙事件被告に支払つたことにより、乙事件被告の甲事件被告に対する民法七〇九条に基づく損害賠償請求権を取得したとして(商法六六二条一項)、甲事件被告に対し、右保険金の求償を求める。

なお、付帯請求は、訴状送達の日の翌日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

2  乙事件

本件事故によつて車両損害を被つた乙事件原告が、民法七〇九条に基づき、乙事件被告に対し、損害賠償を求める。

なお、付帯請求は、本件事故発生の日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

二  争いのない事実等

1  次の交通事故が発生した(当事者間に争いがない。)。

(一) 発生日時

平成七年五月一三日午後四時ころ

(三) 発生場所

兵庫県加東郡東条町森尾一八番地の二先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 争いのない範囲の事故態様

乙事件被告は、普通貨物自動車(神戸四六そ七八〇七。以下「吉田車両」という。)を運転し、本件事故の直前、本件交差点の東側の停止線で、赤色信号により先頭で停止し、本件交差点を東から西へ直進しようとしていた。

他方、甲事件被告は、大型貨物自動車(神戸一一ゆ四九七四。以下「谷口車両」という。)を運転し、本件事故の直前、本件交差点の西側の停止線で、赤色信号により先頭で停止し、本件交差点を西から南へ右折しようとしていた。なお、右停止時には、谷口車両は右折の方向指示器を点滅させていた。

そして、本件交差点の東西方向の信号が青色に変わつた後、それぞれこれにしたがつて発進した直進中の吉田車両の右前部と、右折中の谷口車両の左前部とが衝突した。

2  車両の所有関係

乙事件被告は、吉田車両の所有者である(甲第七号証により認められる。)。

また、乙事件原告は、谷口車両の所有者である(当事者間に争いがない。)。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び甲事件被告・乙事件被告の過失の有無、過失相殺

2  甲事件原告・乙事件原告の請求しうる金額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  甲事件原告・乙事件被告

甲事件被告は、谷口車両を運転して右折するに際しては、直進対向車両である吉田車両を先に通過させた上で右折を開始すべき注意義務があるのにこれを怠り、吉田車両の動向に注意しないまま、同車両が本件交差点を通過する前に、本件交差点を右折するべく谷口車両を小回りに右折させた過失がある。

したがつて、本件事故の原因は、もつぱら甲事件被告の右過失に求められる。

2  甲事件被告・乙事件原告

本件交差点の東西方向の信号が青色に変わつた後、吉田車両には発進の気配が見られなかつたため、甲事件被告は、乙事件被告が自車を先に右折させてくれるものと判断し、谷口車両の右折を開始した。

ところが、谷口車両の右折中、乙事件被告が、突然、吉田車両を急発進・急加速して直進してきたため、甲事件被告は谷口車両をさらに右転把する措置を講じたが及ばず、本件事故が発生したものである。

これによると、本件事故の主たる原因は、乙事件被告の右過失に求められ、甲事件被告の過失の割合は、多くとも五割を超えることはない。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  甲第二号証、第四号証、検乙第一ないし第一四号証、甲事件被告及び乙事件被告の各本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実の他に、次の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点は、東西に走る片側一車線、両側合計二車線(幅員合計約五・四メートル)の道路と、そこから南へ向かう幅員約五・五メートルの道路(川にかかる橋で、中央線は記されておらず、右幅員の他に両側に段差のある歩道が設けられている。)とからなる。

(二) 吉田車両は、本件事故により、前部右側に、進行方向に向かつて右側ほぼ直角の方向からの外力を受けている。

そして、これは、普通貨物自動車である吉田車両が、大型貨物自動車である谷口車両の左前輪の前部、車体の下側にもぐり込む形になつたからであると認められる。

なお、吉田車両は、前部構造全体が大破しており、フロントガラスも破損している。

(三) 本件交差点の西側の横断歩道のすぐ東側付近で、西行き車線上には、約二メートルにわたつて、擦過痕が残されている。

そして、右擦過痕は、吉田車両の右前輪が谷口車両との衝突の衝撃でパンクした後、ホイール部分により、西から東へ向かつてつけられたものと認められる。

(四) 本件事故後、吉田車両は、本件交差点のほぼ中央部、西行き車線上で、南を向いて停止した。

また、谷口車両は、本件交差点から南へ向かう道路の西側の橋の欄干に、南に向かつて衝突して停止した。

(五) 本件事故直後に、本件事故の発生場所で行われた実況見分においては、甲事件被告、乙事件被告のそれぞれが、別々に、いずれも、衝突地点は本件交差点の西側の横断歩道の東端付近、西行き車線上であり、衝突時には吉田車両はほぼ西向き、谷口車両はほぼ南東向きであつた旨の指示説明をしている。

2  右認定事実のうち、本件事故の発生場所に残された擦過痕及び吉田車両の破損状況から容易に推認することのできる現場の残留物並びに実況見分における甲事件被告、乙事件被告の指示説明によると、吉田車両と谷口車両の衝突地点は、右指示説明のとおり、本件交差点の西側の横断歩道の東端付近、西行き車線上であつたこと、及び、衝突時には吉田車両はほぼ西向き、谷口車両はほぼ南東向きであつたことを優に認めることができる。

これに対し、甲事件被告の本人尋問の結果の中には、右衝突地点は、本件交差点の中央に寄つた付近であつた旨の部分があるが、右各証拠に照らし、採用することができない。

また、甲事件被告の本人尋問の結果の中には、本件交差点の東西方向の信号が青色に変わつた後、谷口車両を直進させて、右横断歩道の東端あたりまで出たが、吉田車両は停止したままであつたため、右折を開始した旨の部分があるが、右認定した衝突地点に照らし、これも採用することができない。

そして、右認定の衝突地点及び衝突時の吉田車両と谷口車両の方向並びに前掲各証拠によると、本件交差点の西側の停止線の一メートル以上手前で停止していた谷口車両(甲事件被告本人尋問の結果により認められる。)は、本件交差点の東西方向の信号が青色に変わつた後、対向直進してくる吉田車両よりも先に本件交差点を右折すべく、直ちに右転把を開始し、本件交差点の西側の横断歩道付近に達した時に、対向直進してきた吉田車両と衝突したと認めるのが相当である。

3  そして、甲事件被告には、本件交差点を右折するに際し、交差点の中心の直近の内側を徐行すべき義務(道路交通法三四条二項)、本件交差点を直進しようとする車両の進行を妨害してはならない義務(同法三七条)があるにもかかわらず、右義務を果たさなかつた過失があることは明らかである。

他方、乙事件被告も、同本人尋問の結果によると、衝突の直前まで谷口車両に対して危険を感じていなかつたことが認められ、反対方向から進行してきて右折する車両に注意すべき義務(同法三六条四項)があるにもかかわらず、右義務を果たさなかつた過失があることは明らかである。

そして、右認定事実により、右両過失を対比して検討すると、本件事故に対する過失の割合を、甲事件被告が八割、乙事件被告が二割とするのが相当である。

二  争点2(損害額)

1  甲事件原告

(一) 甲第三ないし第五号証、乙事件被告本人尋問の結果によると、本件事故当時の吉田車両の時価が金一六〇万円であつたこと、本件事故により、吉田車両は右時価を上回る修理費を要する損傷を被つたこと、甲事件原告と乙事件被告とは、吉田車両について車両保険契約を締結していたこと、右保険契約に基づき、甲事件原告が、乙事件被告に対して保険金一六〇万円を支払つたことが認められる。

なお、甲事件被告は、右保険契約においては、免責金額として金五万円の定めがあつた旨主張するが、車両保険契約の普通保険約款においては、修理費が保険価額以上となるときには免責金額の適用がないことは当裁判所に顕著である。

(二) そして、争点1に関して判示したとおり、本件事故に対する過失の割合を乙事件被告が二割とするのが相当であるから、乙事件被告の甲事件被告に対する損害賠償請求権の額は、金一六〇万円から二割を控除した金一二八万円となる。

したがつて、甲事件原告が商法六六二条一項により取得する金額も金一二八万円である。

2  乙事件原告

(一) 損害

(1) 修理費用 金一九九万五六九七円(請求も同額)

当事者間に争いがない。

(2) 代車費用 金四四万四〇〇〇円(請求も同額)

乙第三号証の一及び二、乙事件原告本人尋問の結果により、本件事故と相当因果関係のある損害であることが認められる。

(3) 弁護士費用 認めない(請求は金二五万円)

乙事件原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であるが、本件事故当時、甲事件被告は、乙事件原告の業務に従事中であつたこと、したがつて、乙事件原告も、民法七一五条により、乙事件被告に生じた損害を賠償する責任があること、本件事故に対する過失の割合を、甲事件被告が八割、乙事件被告が二割とするのが相当であること、本訴訟の一部は、乙事件被告に対して保険金を支払つた甲事件原告からの請求であること等、一切の事情を勘案すると、乙事件原告の弁護士費用を、本件事故と相当因果関係のある損害であるとすることはできない。

(4) 小計

(1)ないし(3)の合計は、金二四三万九六九七円である。

(二) そして、争点1に関して判示したとおり、本件事故に対する過失の割合を甲事件被告が八割とするのが相当であり、本件事故当時、甲事件被告は、乙事件原告の業務に従事中であつたから、乙事件原告の乙事件被告に対する損害賠償請求権の額は、次の計算式により、金四八万七九三九円(円未満切捨て。)となる。

計算式2,439,697×(1-0.8)=487,939

第四結論

よつて、甲事件原告の請求は主文第一項記載の限度で、乙事件原告の請求は主文第二項記載の限度で、それぞれ理由があるからこの範囲で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

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